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なぜ電脳空間カウボーイなのか?


第二回天下一カウボーイ大会の告知を含めた放送、全六時間にわたりお送りしましたが、本当に心底疲れました。




それでも常時100人以上の視聴者の方に見ていただいて、ひとまず成功だったかなと思います。最盛期は160人、放送終了時でも120人以上のかたがたに見ていただけて良かったです。




そもそもなんで日本人なのに「コンピュータカウボーイ」なんだよという話があったりして、

きっとそういう人はウィリアム・ギブスンのニューロマンサーを知らないに違いないのです。




サイバースペース(電脳空間)という単語そのものを定義したのがニューロマンサーであり、ニューロマンサーなくしては攻殻機動隊もマトリックスもありえないのですよ。






ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)

ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)

  • 作者: ウィリアム ギブスン, ウィリアム・ギブスン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1986/07
  • メディア: 文庫







ニューロマンサーの舞台は千葉から始まる。

千葉は闇クリニックのメッカであり、コンピュータを巧みに操り、さまざまな任務(ラン)をこなす腕っこきのコンピュータ・カウボーイ(ジョッキーとも呼ばれる)の集う電脳都市でもある。カウボーイ達は自らの脊椎にジャックを外科的に埋め込み、コネクターを直接神経に接続することで文字通り"人馬一体"となって電脳空間へと没入(ジャック・イン)する。




つまり日本こそコンピュータ・カウボーイの集い、暮らすメッカであり、本場アメリカのカウボーイはきっとその年代になっても牛を追いかける文字通り牧童であるに違いない。




物語世界を離れてみるに、なぜコンピュータ・ハッカーを「カウボーイ」と称したのかは実はSFの歴史的側面がある。




SFにはもともと、科学的なギミックと思考実験が主体の"ハードSF"に始まりますが、科学的知識が前提にないと楽しめないため、より一般向けに科学的な設定だけをまねてストーリーを優先した「スペースオペラ」というものが1920年代のアメリカで流行し、これは後に「スターウォーズ」に代表される文化を生み出します。




スペースオペラのストーリー的なルーツは、それ以前から定着していたソープオペラ(メロドラマ)やホースオペラ(西部劇)にあるとされ、科学的な考証よりもドラマ性を重視するためそう呼ばれる・・・らしいのです。




スペースオペラ研究の大家、そしてガチャピンのモデルとしても名高い野田昌宏氏の「SF英雄群像」によれば、原初のスペースオペラは火星の牧場にあらわれた宇宙ギャングを宇宙カウボーイが宇宙船で追い回して撃退する、みたいなとてつもなくヌルいストーリーだったのだとか。このことはスペースオペラの源流がホースオペラ(西部劇)にあることが想像できます。






SF英雄群像―スペース・オペラへの招待 (ハヤカワ文庫 JA 119)

SF英雄群像―スペース・オペラへの招待 (ハヤカワ文庫 JA 119)

  • 作者: 野田 昌宏
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2000
  • メディア: 文庫





こうしたスペースオペラの主人公である「スペースカウボーイ」の頭に「サイバー(電脳)」がついて、大暴れする舞台を宇宙から電脳空間(サイバースペース)へと移し、八面六臂の活躍を繰り広げるというのはなんとも納得のいく話です。




西部劇は開拓時代のアメリカ西部が舞台、スペースオペラの舞台はまだ未開拓の銀河系とくれば、サイバースペースオペラの舞台は電脳空間と80年代当時飛ぶ鳥を落とす勢いだった日本の首都圏であったというわけです。




つまり、電脳空間オペラに登場する電脳空間カウボーイの一流どころは当然のように日本に住んでるはずで、だとすれば現代の秋葉原を抜きにその隆盛は語れないのではないかと思うわけです。




しかしレンズマンや宇宙のスカイラーク、スターウォーズといった比較的能天気なスペースオペラに対して、サイバーパンクのなんと暗いことか。当時の世相を反映しているのだと思いますけど、マトリックスにしろ暗すぎです。




もっとバカみたいに明るい、サイバースペースオペラと呼ぶにふさわしい、バカそのものの作品はなぜ出てこないのでしょうか。




明るいサイバーパンクといえば、「京美ちゃんの家出」をはじめとしたミルキーピアシリーズは良かったのですが、それに続く作品がなかなか出てこないのは、やはり大家に遠慮している人が多いのでしょうか。






京美ちゃんの家出―ミルキーピア物語

京美ちゃんの家出―ミルキーピア物語

  • 作者: 東野 司
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1989/04
  • メディア: 文庫







ギートステイトは、ある意味でそうした「明るいサイバースペースオペラ」的な作品になってくれないかとひそかに期待していたのですが、ちょっと遅れているようで少し残念です。




早く明るいサイバースペースオペラが読みたいですなあ




最近乱発されている「メタバース」という言葉の語源であるスノウ・クラッシュもかなり痛快な話なのですが、いかんせんまだ少し暗い感じがするんですよね。






スノウ・クラッシュ〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

スノウ・クラッシュ〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

  • 作者: ニール スティーヴンスン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2001/04
  • メディア: 文庫





スノウ・クラッシュはプログラマやWebサービスを考える人にとっては必読書と言って良いほど素晴らしく面白く痛快な小説ですが、この小説におけるメタバースって、あまり凄い意味をもってないんですよね。ガジェットとしては機能してますけど、メタバースである必要がありまない。たぶん、ジャックインするという発想があまりに突飛なので中間地点を考えた、という程度なのではないかと思います。




スノウ・クラッシュのメタバースと京美ちゃんの家出の仮想空間はほとんど一緒だし、仮想空間におけるさまざまな描写は京美ちゃんの家出の方が圧倒的に細やかだしリアルですね。もし仮想空間に興味があるなら、どちらも必読書です。




スノウ・クラッシュの主人公はカウボーイではなくて高速ピザ配達人ですが、それでも移動する仕事の人には変わりないです。現代のカウボーイの生業はピザ配達やバイク便なのかもしれません。


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